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Music Review
Violator
Depeche Mode
Mitsuyoshi Takeda
June. 2021

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CDラックの一番隅に。 

In the corner of the CD rack.

自分にとって中学時代は「楽しさ」と「ダサさ」が混在した思い出深い時代だ。

中学入学時に、家族から貰ったお祝いでSONYの巨大ラジカセ「DoDeCaHORN」を購入、自分で気になったものや友達に勧められてものなど色々な音楽を聴き始めていた。

ある日、友達と音楽の話をしているうちに、お互いの気に入った曲を集めたミックステープを交換しよう、という話になった。僕は構成を考えつつ、当時流行っていたバンドの曲などを46分のカセットテープに収めた。一週間後、お互いに持ってきたテープを交換し、僕は彼がどんなテープをつくったんだろうと楽しみにしつつ家で再生してみた。

すると驚いたことに、曲が始まったと思うと急に別な曲の変な効果音部分が繋がり、続けて様々なアーティストの歌詞の部分を細かくつなぎ合わせてしょうもない下ネタになっていたり、急に「イェー!」が何回も繰り返し繋がれていたり、どこから採取した音源なのかわからないような音源が延々と細かくつなぎ合わされたとんでもない内容だった。

つまり、彼は「ミックステープ」を「ベスト盤」的な解釈では無く、文字通り「ミックス」と捉え、このエポックメイキングな「コラージュ作品」を作り上げたのだ。もちろん録音編集機材などあるわけもなく、せっせとダブルラジカセでダビングを繰り返したのだろう。次の日、「ミックステープってああいう事じゃないよ」と彼に伝えたら「え?そうなの?」と、やっちまった感を隠すように、恥ずかしそうにずっとニヤニヤしていた。

他にも、ユニコーンのファンだった奴がスクールザック(学校指定のバッグ)の内側にペンで「UNICORN」と書いたつもりが「UNCORN」と書いてしまい、みんなに「ウンコーン」と呼ばれていたり、スチャダラパーを聞いて、「こういうの(ラップの事)かっこいい!」と別のアルバムを買いに行き、間違えて電気グルーブを買う(これは僕)などなど。。
田んぼのあぜ道の中をジャージにママチャリ、ヘルメット着用で通学する僕達は、レコード屋なんて無い田舎でも、つたない情報源と未熟な咀嚼能力を駆使して新しい音楽体験を楽しんでいた。

そんな中、都会から転校生のM君がやってきた。都会からの転校生と言うだけでも十分ざわつく出来事なのだが、まず衝撃だったのがそのヘアースタイルで、彼は綺麗なマッシュルームカットだったのだ!(ちなみに僕の中学校は男子は全員校則で丸坊主。転校してきた彼も後に泣く泣く丸坊主となった。。)さらに、なんとビートルズのファンだと言うことが判明した!洋楽と言えばマドンナとマイケル・ジャクソンくらいしか知らなかった僕らには、それはまさに黒船到来であり、「ビートルズのファンだなんて、おしゃれすぎる!!」と衝撃を受けたものだった。

M君と僕はクラスが違ったのでそんなに親しくはならなかったのだが、M君からのリコメンド情報は友達を介して色々入ってきた。ただ、途中で伝言ゲームの様に内容が変わっていくことも多く。。。
今思えば、多分それはクラフトワークの事だったと思うのだが、M君から情報を聞いた友達が「メンバー全員がシンセのバンドがあるらしいぞ!!」と、何故かCureの「Disintegration」を勧めてくれた。Cureのメンバーが全員シンセ担当ではない事は言うまでもないがそれはさておき、冒頭から展開される壮大できらめきのあるサウンドに僕はすぐに夢中になった。「こんな感じの全員シンセ(ではないのだが)のバンドをもっと知りたい!」と思い、何の情報も持たずに購入したのがDepeche Modeの「Violator」だった。恐らく、CDショップで同じコーナーにあったのだろう。

Cureに夢中だった僕が聴いたDepeche Modeの第一印象は「あれ、なんか思ってたのと違う。。」だった。Cureに比べるとにかくソリッドで無機質に思えたサウンドは、単純に当時の自分にはほんの少しだけ向き合うタイミングが早かったのだと思う。貴重な小遣いを投入して買った国内版CDが思ったような内容で無かったショックは大きく、その後しばらくはCDラックの一番隅が「Violator」定位置だった。だが、アルバムのオープニング「World in My Eyes」の強烈なリフはずっと頭に残っていた。

それから約30年。「Violator」がDepeche Modeの代表作とも言える金字塔であることを理解しながらも、僕のこのアルバムへの印象は田舎の中学生と同じ、「あれ、なんか思ってたのと違う。。」だ。でも何故か定期的に向き合いたくなる、30年もの長い付き合いになるアルバムになるとは思っていなかった。好きとか心地よいとかそういう理由では無く、自分の中のCDラックの隅には常にこのアルバムが無いどうも落ち着かないのだ。。。目に付くと再生してみて、「やっぱ、思ってたのと違う。」と思い、そして「でも最高じゃん、やっぱこれ。」と思ってしまうのだ。

Mitsuyoshi Takeda

PROFILE 

竹田 光義

WEBディレクター/デザイナー

岩手県盛岡市出身。宮城教育大学大学院(美術教育専修)卒業後、デザイン事務所、 印刷会社を勤務の後フリーランスへ。
シューゲイザーとスピルバーグと心霊番組が好き。

https://www.meltlab.jp

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