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Song Review
東京一年生
竹原ピストル
Daijiro Kaneda
September. 2017

ph

08 京三年生 

“TOKYO”Third grade

僕は東京が嫌いだ。
多すぎる人、溢れかえるモノ、移り変わりの早い街、競争社会。 毎朝玄関の扉を開けようとするたび、息が詰まりそうになる。この場所は自分に合っていない。そんなことをここ何年か感じてきた。

上京して半年が経ったころ、僕はとある曲を聴きながら履歴書とにらめっこしていた。その曲では「頑張れ、東京一年生」なんてフレーズが、たびたび叫ばれている。六畳一間、部屋の中央に置かれた小さなデーブル。“この薄っぺらい紙一枚で、これからの生活が決まる”そう考えると自然とペンが元気を無くすのであった。

上京後、出版業界でライター兼、編集者としてスタートを切った僕の生活はたった半年で終わりを迎えていた。降りかかってきた数多の原稿ページに夢も希望も押しつぶされ、逃げるように当時の職場を去った。今思うと、知識も経験もない僕が最初からプロの現場に通用するはずもない。落ち込むことすら馬鹿馬鹿しいくらいの負けっぷりだった。 東京という街の世知辛さを肌で感じながら、脳裏にはたった半年で地元へ帰ることがよぎっていた。それでもイアホンから聞こえる「頑張れ、東京一年生」というフレーズは、不思議と僕のペンを走らせたのだった。そして僕は、飲食業を生業とするこの会社の門を叩く。

動機はいつだって単純で不純だ。
“学生時代に飲食店でのアルバイト経験があったから”そんな理由で入社したのだから、自分の経験値の未熟さ、周りのレベルとのギャップにあっけなく挫けてしまうのは言うまでもない。 “もう会社も辞めて地元へ帰ろう”そう決めたのは入社してたった三ヶ月、そして上京してから一年が経とうとしているころだった。 そしてそのころだろうか、なけなしの貯金を使ってカメラを買ったのは。

“会社も辞め、どうせこれから暇な生活になる”
そう予感していた僕は“趣味になればいい”程度の動機で、一眼レフカメラを買った。幸い、カメラの扱い方は前の会社でなんとなく身につけていた。近所の野良猫、自宅前の花壇、街行く人々、そして職場のお店や、そこで提供している料理の数々。気晴らしに、鬱憤晴らしに、おもむろに、シャッターを切った。 すると社内での撮影案件も徐々に増え、いつしか僕は写真を撮ることに喜びを覚えていた。それでも退社予定日は刻一刻と近づいてくる。僕は複雑な心境を抱えたまま、きっと最後になるであろう社長との面談へ赴いた。

「取って食ったりはしない、辞めようと思えばいつだって辞められる」 開口一番、社長はそう言った。そしてこう続ける。
「この会社で写真を撮り続けてみないか」

その言葉のあと、何を言われたのかはあまり覚えていない。
ただ僕の答えは“Yes”だった。

東京に憧れていた自分、そして地元で就職しなかった自分を呪ったこともある。それでも今は立場や役目を授かり、この地に足をつけている。 多すぎる人も、溢れかえるモノも、移り変わりの早い街も、ファインダーを覗けばいつだってオモシロイ被写体だ。
毎朝玄関の扉を開けようとするたび、“今日はどんな写真が撮れるだろう”そう胸を高鳴らせている自分がいる。

そんなわけで、こんな風に、僕の東京三年生の日々は更新されている。 挫けそうな時や逃げ出したくなった時、この歌に後ろ指をさされているような思いもするが、ひとまずは気にしないことにしておこう。 いやはや、毎日ドラマを生んでくれるこの東京という街は、まったくもってヘンテコである。

やっぱり僕は東京が嫌いだ。

CLASSIC & SESSIONS INC.
Photographer / Designer : Daijiro Kaneda

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